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第12話「友人」

***

「手紙…?差出人はアージェント・ブラン……ブラン?」

 ブランといえば他の星に住む者も知る光の国ソレイユのブラン家。大変な名家であり、そのブラン家第一子息アージェントよりサヴァンの元に手紙が届いたのは今から3年前の事だった。

手紙の内容は【サヴァン博士の行っているこの第五銀河惑星についての研究、歴史を学びたい】という平たくいうと家庭教師の依頼だったが、サヴァンは自身の研究等、興味が有る事以外は至極無関心な男だった。

「…なぜ私に…」

ため息混じりに手紙を破棄しようとした時、玄関の扉にいつの間にか設置されていた鈴が心地よい音を響かせ訪問者を知らせてきた。この鈴をつけた張本人、カルミアだ。彼女はサヴァンの婚約者でもあり、日々献身的に彼をサポートしている。今日も手作りのランチをもってサヴァンを訪ねて来た。

サヴァン、ランチの時間よ!…あら?そのお手紙は何?」

「ああ…いや、何でもない。君が気にすることじゃないよ」

サヴァンの手にある手紙について問いてみると、彼はばつの悪い表情で返答した。サヴァンがこの表情ではぐらかすような台詞を言う時は、決まって何か面倒事を抱えた時だということをカルミアは知っていた。持ってきたカゴをテーブルへ置くとサヴァンの近くへ寄り手紙を覗き込んだ。

「なになに~?…え?!あのブラン家のご長男から家庭教師のご依頼じゃない、サヴァンすごい!」

名家の子息からの依頼にカルミアは驚きつつとても喜んでいるようだった。

「別に凄くはないよ。それに受けるつもりもないし」

「ううん、すごいわ!…え、受けないの?どうして?」

「どうしてって…うーん、研究があるし……」

面倒だからと続けようとした時、不意にカルミアサヴァンの両手を包むように握って微笑みを向けてきた。

「ねぇサヴァン、このご依頼はとっても名誉あることだと思うの。だってこの世界に沢山いる博士の中からあなたを指名されたのよ?それにアージェント様もサヴァンの研究していることをお知りになりたいんでしょう?それなら研究の延長だと思って…受けてみたら良いんじゃないかしら」

サヴァンカルミアのこのすべてを許すような慈愛に満ちた優しい笑顔に弱かった。珍しくふふっと微笑み返すと握られた片方の手を抜き亜麻色の髪に優しく触れそっと撫でた。

「…そうだな。君の言うとおりかも知れない。…ありがとう、カルミア

 

---

 こうしてアージェントの家庭教師となったサヴァンは定期的にブラン家に訪れてはこの第五銀河惑星について教える日々を送り、2年の月日が流れた。

サヴァン先生、短い間でしたが本当にありがとうございました。沢山のことを学べました」

「いえ、こちらこそ。…私も君を通じて色々と学ぶことができました。感謝します。…あ、一つお願いがあるのですが良いですか?」

 「お願い…ですか?私にできる事でしたら」

了承を聞くとサヴァンは片手を差し出し握手を求めた。普段、人見知りで内向的な性格であるサヴァンからは想像もつかない行動だったが、アージェントは急ぎ握手を交わした。

「ありがとう。今日から君と私は教師と生徒ではなく、一人の人間同士として対等となります。つまりその"先生"というのも敬語も不要です」

サヴァンにとって敬語は他人との壁であり、敬語を使わなくなるという事は相手を認めたという証拠だった。

「で、ですが…サヴァン先生への尊敬は変わりませんし、それに…」

「…ではこうしましょう。私も君への対応を改めよう。これから君と私は"友人"だ。いいね、アージェント」

翡翠色の瞳にしっかりと自分が写っていた。この強い瞳で彼が言い出したらきかない事や、強い意思を持っていることはこの2年間でよく理解していた。

「…分かった。良き友人としてこれからもよろしくたのむ、サヴァン

その返答を聞くとサヴァンは満足げに口角をあげ強く握手を交わした。

 

***

 それから1年後、風の噂でアージェントはソレイユ一の騎士となったと聞きサヴァンはテールから友の活躍を祈る日々を送っていたが、テール国軍より召集令状が届いたのはその頃だった。

 

「招集に応じる気などないから安心してくれ」

 

 そう言ってゴミ箱へ投げ込まれた令状を拾い上げたのはカルミアだった。

 

 

第11話「土の星テール」

学問が発展している星といえば、土の星テールだといってまず間違いはない。

文学、医学、史学…あらゆる面から深い知識を持つ優れた人物の称号が「博士」だ。
博士には全部で五段階のランクがある。第五級博士は山のようにいるのだが、ランクが上がるにつれて人数は減り、第一級博士はほんの一握りしかいないのだ。

テールのとある小さな田舎町に博士の称号をもつサヴァンという青年がいた。都会の方が学べる場所は沢山あるし情報も行き交っているため博士といえば都心にいることが多い。
しかし彼は田舎に生まれ田舎で育ち、博士の称号を得ていた。しかも第一級レベルだ。彼は、優れた学者に教えられるでなく、ほとんど答えを自分で編み出していた。
サヴァンは色々な方向に跳ね返った黒髪を片手でかいて、読んでいた紙の束を無造作に机に投げた。かけていたモノクルを外し、ふうと息をついたところで、家のチャイムが鳴ったので扉へ向かった。
木造の小さな彼の家の中は、本や紙束で埋まり、足の踏み場に困るほどだ。
訪問者はカルミアだった。彼女は艶のある長い髪をゆるくひとつに束ね、果物やパイが入った籠を手に持っている。

「大丈夫?サヴァンのことだから、ここのところろくに食事もしていないんでしょう。研究もいいけれど食事はきちんととらないと。いくらか持ってきたから少しは食べてちょうだい」
研究や読書に没頭すると、身なりどころか食事や睡眠まで頓着しないところが彼の悪いところだ。

サヴァンは、うーん、と気のない返事をした。食欲より読書欲のほうがはるかに勝っていたからだ。食事用のテーブルの上も数式を書きなぐった紙の束や本で山積みで、とうてい食器を広げられるような場所などない。食事のスペースをあけるよう叱られ、しぶしぶテーブルの上を片づけた。こういうときにカルミアに逆らわないほうがいいことをサヴァンは知っていた。

普段は大人しいのだが、1度言い出したらよほどの事がない限り意思を曲げないのだ。

 

サヴァンがテーブルに積まれた本を片づけていると、1枚の紙が落ちた。カルミアは落ちた用紙を拾うと目を丸くした。

サヴァン、これ…大変なことじゃないの」

カルミアが拾ったものは召集令状だった。テール国の国印が押されている。

「ああ、それは気にしなくていい。召集に応じる気などないから安心してくれ」

サヴァンは当たり前のように言うとカルミアが持っていた召集令状を手に取り、ゴミ箱へ投げ込んだ。

 

 

 

第10話「幼馴染み」

***

朝日が眩しく木々の間から差し込むさわやかな春の朝。
川沿いにある大きな木の下で5歳のフォートが赤い髪を目立たせ、日差しにキラキラと汗を光らせていた。

「…ふぅー……」

休憩がてら木陰に座り込み傍に置いたタオルで汗を拭いていると、透き通る川の水底にキラと光るものを見つけた。
気になってズボンの裾を捲り水へ入ると光るものを手にした。

「…ペンダント?」

拾い上げたものを太陽の方にあげながら眺めていると、先程座っていた木陰の方からザクと足踏みの音が聞こえてきた。

「…あの…それ…」
「…あ?」

フォートはかけられた声と足音に気づき首を傾けると、透き通るような青い目と金色のやわらかそうな髪が肩の辺りまである同い年くらいの子供が大きな木の幹に体を寄せ隠れるように木の後ろに立ち顔だけを覗かせていた。

「なんだ、コレお前のか?」
「う、うん…とても大切なものなんだけど、昨日初めてここへ来てあの橋を渡った時に転んじゃって…きっとその時だって…」

その子は恥ずかしそうにそういいながら水辺まで歩み寄ると、日差しに透けた金髪と青い目はこの世のものとは思えないほど美しく輝いた。
その姿にフォートは思わず見惚れてしまい、少し黙り込んでしまった。

「どうしたの?」
「…いや、ああ…これお前んだったな、ほらよ」
「あ、ありがとう!」
「そーいやぁソレなんなんだよ?」
「あ…これ?これは指輪のペンダントなんだけど、弟とおそろいなんだぁ!」
「弟がいんのか…てゆかまだ名前聞いてなかったな、俺の名前はフォート!」
「あ、僕はアージェント、アージェント・ブランっていうんだ」
「へぇアージェントかぁ…僕……って…お前もしかして男?!」
「え?そうだけど…僕、やっぱり女の子にみえた?」
「え、いや……ちょっとだけな」
「うーん…いつもこうなんだ、どうしたら男にみられるのかなぁ…?」
「んー…お前強いのか?やっぱ男は強くねぇと!」
「え…一応お城で剣技とか武道とかは毎日訓練してるけど…」
「お!じゃあ試しにやってみねぇか?」

フォートはアージェントの返事を聞く間もなく構えを始めアージェントに向った。
アージェントも一瞬だったにも関わらずとっさに交わし構えを向けた。

***

「っはぁ…はぁ…」
「ふー…こんな互角に遣り合えたの…久々だぜ…」
「…フォート…君…強いね…」
「いや…アージェント…お前は立派な男だ…俺も負けてらんねぇな…」
「はは…僕も君に負けないように頑張るよ…」

ほんの数十分の間に二人は互角の戦いを見せた。
川辺の木陰に二人ともドサッっと横になり、互いの服や顔が汚れや傷にまみれているのにとても満足そうに笑っていた。
それから二人は自分の身の上の話をそれぞれ話し合った。
話は弾み、気づけば夕刻が近づく頃、アージェントはソレイユへ帰らなければならないと言って立ち上がった。
フォートも立ち上がり二人はギュッと握手をかわした。

「強くなろうな、俺達」

橋の上から夕日を背に思い切りこちらに手を振るアージェントを見ながらフォートは手を振りクスと鼻を鳴らして笑った。

「はは、アイツきっと笑ってんだろーな、逆光でなんもみえねぇけど」

***

それから十数年後、二人は互いに住む星で一番強い男と呼ばれる場所、国軍第一隊長を就任していた。

第9話 「炎の星フレイム」

血の気の多い男が集まると喧嘩が絶えないのは世の常だ。
きっかけはどれも些細なことで、決着がつく前に原因を忘れていたりすることもある。今回の騒動も誰が最初に起こしたことなのかもう分からなくなっていて、大勢で殴り合っていた。その中でもひときわ目立って暴れている男がいた。むきになって突っかかってくる相手を軽々と投げ飛ばしている。
燃えるような赤い髪の毛を立て、背が高くたくましく整った体つきをした彼は、お祭りのように楽しんでいた。
彼の名はフォート。
炎の星、フレイムの国王軍第一隊長である。フレイムでフォートのことを知らない人はほとんどいない。庶民の生まれで第一隊長になるほどの強さを持ち、何より人柄の良さが彼の人望と信頼を集めていた。ただ、やんちゃで喧嘩っ早い性格はどうにも直らず、小さな頃から毎日傷をこさえてくるので身内の人間は心配していたらきりがなかった。
「なんだ、もうかかってくる奴ぁいねえのか?」
フォートはいたずらっぽく笑いながら叫んだ。
「そんなこと、言ったって、フォート、お前が、強すぎるんだよ」
近くに座り込んだ男が息を切らせながら言った。
「あーまだ暴れたりねー。もっと楽しませてくれる奴はいねぇのかよ。なんかでっけぇ事件でもおきねーかな」
酒樽の上にどっかと片足を曲げて座り、タバコとマッチを手にとった。
殴られたまま寝転がっていた別の男が口を開いた。
「…そういえば、フォートに国王の召集伝令がかかってたぞ」
「は?」
「ああ!そうだ、思い出した!それを伝えようと思ってここに来たんだった。もう騒ぎが始まってて止めようとしてたら俺も混じっちゃって忘れてた!」
「ばかやろ!お前言うのがおせーんだよ!!」
フォートは慌てて飛び上がると一直線に宮殿へ走っていった。

***

「フレイム国軍第一隊長フォート、只今参りました」
「ずいぶんゆっくりな到着じゃないか」
深紅の絨毯が続いた向こうに座っているのはりりしい眉毛と、眉間に深いしわをつけた貫禄のあるフレイム国王だ。
「大変申し訳ございません、陛下」
フォートは頭を下げたが、国王は言葉にしたよりもさほど気にしていないようだった。
「まぁ、よい。お前のことだ、また騒ぎに首を突っ込んでいたのだろう。それを止めるのもお前の仕事だというのに…いや、今日はこのような話のために呼んだのではない。フォート、お前に新たな任務を命ず」
フォートは短く返事をして、片膝と右手の拳を床につけた。
「任務は彗星の撃退である。この任はソレイユ国軍第一隊長が指揮をとっている。第五銀河惑星の中で突飛した能力を持つ者が手を組む必要があるらしいのだ。詳しい話は直接聞け。手筈は整えておる、すぐにソレイユへ向かえ」
「かしこまりました」

宮殿の長い廊下を歩いていると、軍の下っ端の男が声をかけてきた。
「お、フォートさん。今回の任務はどんなのだったんですか?」
綺麗に磨かれた鎧をきたその男は、目を輝かせていた。
「悪い、かなりでけぇ任務だからな、あんまり口外できねんだ。ところで、アージェントから俺あてになんか連絡きてるか?」
「アージェントって…まさか、ソレイユ神軍第一隊長のアージェント・ブラン!?」
「なんだ、お前妙に詳しいな」
「常識ですよ!第五銀河惑星の統一国ソレイユの第一隊長だなんて憧れない奴はいないです!あの神軍ですよ!?そんな人から連絡がくるかもしれないフォートさんもやっぱりすごいです」
「……で、連絡は来てないんだな?」
「はい!来てないです」
(前置きが長ぇんだよこいつは)
フォートは少し吹き出して笑った。男の驚きと尊敬の目を見ていると、いつものいたずら心がうずいた。
「お前知らないの?」
「何をですか?」
「あいつちっこい頃は女に間違われること多かったんだぜ」
「へ?何でそんなこと知ってるんですか?」

フォートは笑いながら、去り際に言い放った。

 

「俺、あいつと幼馴染みだから」
下っ端の男は目が飛び出るほど驚き、立ち尽くしていた。

第8話 「公爵の考え」

アルメリアとアージェントの姿を見送るとベルは言われたとおりに部屋に入った。
部屋に入るもどこか落ち着かず室内を目視程度に見ていると、小さなノックの音と共にアルメリアの言っていたお茶が運ばれてきた。
召使の女性は二人分のお茶を用意しながら、どうぞおかけになってお待ちくださいねと言って微笑みを向けた。
ベルは口元を緩ませた笑みで会釈をし礼をするもその場に腰掛けることはなかった。
召使の女性が部屋を出て数分後、アージェントが戻ってきた。

「すまない、またせたな」
「いえ、大丈夫です」
「そうか…まずはそこに座り少し休むと良い、話はそれからでも良いだろう」

フルールという別の星から来たベルの事を思ってか、微笑みを携えつつ言葉をかけながらアージェントはベルのために用意されたお茶の席の向かいに座った。
しかしベルは一向に席に着こうとはせず、アージェントをまっすぐに見つめた。

「お心遣いありがとうございます…ですが私がその様に悠長に構えては居られないのです、一刻を争う事態が我がフルールを…!」

ベルはブロンドの大きな瞳を揺らし、強い気迫に満ちた表情を向けた。その姿はアージェントの透き通るクリアブルーの瞳にしっかりと映っていた。
アージェントはゆっくりと瞬きをひとつするとベルを見つめた。

「ああ、その話も勿論私の所に報告が来ている。まずは其処に座り私の話を聞いてくれないだろうか」

ベルはハッとした表情を浮かべるもはいと返事をしてようやく席に着いた。
アージェントは自分の前にあるお茶を一口飲むとゆっくりと話し出した。

「まずは今、謎の彗星がこの第五銀河惑星を目掛けて接近している中、ついに今回の侵食が始まってしまった。飲み込まれたのは存じている通り、フルール同盟国のオーキャルだ。それに伴い燐星のフルールが同時に危険となる…が、しかしその前に我々にも手立てを打てるチャンスがあることが判明したのだ」
「…それはつまりフルールを救う手立てが…?!」
「ああ、フルールどころか…この第五銀河惑星を、だ」
「…で、ですが作戦を立てている間に彗星に動きがあっては…」
「その彗星なのだが、つい先程報告が入りなにやら急に動きを一度止めているとの事だ。恐らく向こうにも何か考えが在るのだろう」

彗星の動きが止まったとの情報にベルは肩を撫で下ろした様に安堵の息を薄く吐いた。
その様子にアージェントはふふと少し笑みを浮かべて再び語りだした。

「そしてこの僅かな時を使い私が指揮をとり戦術を練ることになったのだ。しかし実はその策はもう立ててあってな…」
「さすがアージェント公爵様ですね…して、その策とは…」
「ふふ、それは皆が揃ってから述べるとしよう。その前に言っておくがこの策には私の考える有能な人員が必要であり…ベルジュメル、君を召集したのもそのためだ」
「……召集?私は自らの意思で此処に参りました、召集などは聞いていませんが…」
「ああ、知っている。先程フルールの上層から連絡があった…既に発った、と。国の危機の為に真っ先に此処へ向かったのだろう?さすが私の見込んだ者だと関心した」

そういってアージェントは目を細めて優しく微笑んだ。
ベルは自分の行動に少し気恥ずかしさを覚えつつもアージェントの表情と言葉をうけて口元を緩めて微笑み返すと慌てて礼を言ってお辞儀をした。

「アージェント公爵様、有能な人員とはほかに…」
「ああ、君と私を除きあと3名程の召集を考えてる」
「あと3名…じきに此処へ?」
「その予定だ」

アージェントは徐に傍らに置いていた書類を手に取るとゆるりと目を通し口元の笑みを携えたままガラス張りの大きな窓の向こうを見つめた。

第7話「神殿の姫君」

ソレイユに不時着した小型機から飛び降りてベルはこの国で一番大きな建物を目指して走った。雪よりも白く今にも雲に届きそうなほど大きな建物は神のいる神殿だといわれている。そこにアージェントもいるだろうと確信していた。なぜなら、彼は大神直属の軍の隊長なのだから。
間近で見ると神殿はより白く輝いて見えた。入り口には翼がある二人の兵士が長槍を持って立っていた。ソレイユの人間は皆、翼を持っているのだ。ベルにとってソレイユの人間を見るのは三年前アージェントを見たとき以来だったので、ぎょっとしたがすぐに向き直し、早足で扉を開けようとした。
「おい、神殿に何の用だ」
兵士が槍で道を阻んで尋ねた。
「アージェント公爵様にお会いしたい。どうか通してくれないか。時間がないんだ」
「一般の者の話を聞けるほどアージェント様のお暇はない。後日、許可証をもらってから出直してくれまいか」
ベルは苛立った。のろのろと何日も時間をかけていては意味がないのだ。こうしている内にもフルール滅亡の危機は迫っているのかもしれない。
「時間がないといっているだろう!」
もう一言怒鳴ろうとしたとき、鈴のような声がした。
「おやめなさい」

扉から出てきたのは明るいブルーのドレスをきた小柄な女性だった。透き通るような白い肌にほんのりピンクに染まった頬、金色の長く波打った髪にシルバーの小さなティアラをつけている。絹のように滑らかな翼をしたがえて、どこからどうみても一般人ではないことが分かった。何より、可愛らしいという言葉はこの人のためにあるようにベルは感じた。
兵士は声を聞くと慌てて片膝をついた。
「これは、アルメリア様、わざわざこのような場所にいらしていただき誠に恐縮でございます」
「いいのよ、顔を上げてちょうだい」
アルメリアは兵士に言うとベルに目を向けてにっこり笑った。
「あなたはもしかしてフルールのお方かしら?」
ベルはいきなりの問いかけにたじろいだが、頷いて返事をした。アルメリアはあからさまに嬉しそうな顔をしてから少し慌てて言った。
「ああ、先に名乗らないと失礼ですわね。わたくしはソレイユ王の娘、アルメリアと申しますわ」
それを聞いてベルは心臓がとびでるかというほど驚いた。そして慌てて片膝をついて頭を下げた。
「知らなかったご無礼をどうかお許しください。私はフルール国王軍騎士のベルジュメルと申します」
「やっぱり!あなたがフルールの騎士ね!わたくしの目に狂いはなかったのだわ。どうぞお入りになって」
兵士がオロオロと戸惑っていたがアルメリアに言われるまま神殿の中に入った。

***

アージェントは例の作戦を進める手順のため忙しく動き回っていた。神殿の中の部下たちもせわしなく働いていたため、自分でフルールの様子を見に行くために外むかった。
すると、入り口へ続く廊下に、アージェントが幼いころから知っている、ソレイユ国王の一人娘、アルメリア姫の姿があった。姫は神殿の奥からでることを基本的に良しとされてはおらず、入り口付近にいることはとても珍しかった。
「姫、このような場所で何をなさっているのです」
アルメリアは振り向くと花が咲いたようにふんわり笑って言った。
「あら、アージェントの所へ今から行こうと思っていましたわ。お客様がいらっしゃったの」
アルメリアの後に立っていたのは三年前にフルールで見た見習いの女騎士のひとりだった。
「アージェント公爵様、お久しぶりでございます。私はフルール軍騎士のベルジュメルと申します。以前お会いしたことがあるのですが、その時はまだ訓練生でしたので」
ベルは丁寧にお辞儀をして挨拶をした。
「フルールの騎士の話をアージェントが前にしてくれたことがあったでしょう?その話のイメージとぴったりの人が入り口にいるのをテラスから見つけましたの。すぐわかりましたわ」
「そんなことなら人を使わせばよろしかったのに」
アージェントは片眉を下げて笑う。馬鹿にするのとは違う、慈しむような笑顔だった。
「どうしてもお会いしてみたかったの。今を逃すととても忙しくて会うのが困難になるかもしれないでしょう?ふふ、アージェントはよくフルールのお話をするのよ」
アルメリアはベルの方をみると口に手をあてて最後の一言を耳打ちした。エメラルドグリーンの瞳を細めてくすくす笑う姫はとても愛らしく、女のベルでも頬を染めてしまうほど可愛らしかった。
「ベルジュメルと言ったな。覚えているよ。ちょうど私も君に会いに行こうと思っていたんだ。話ならあちらの部屋で聞こう。先に入っててくれ。私は姫を奥間までお連れしてから行く」
「わたくしなら一人で大丈夫ですわ」
「そういうわけにもいきません。あなたは目を離すとどこへ行くか」
「ベルジュメル、ごめんなさい少し待ってていただける?この人一度言い出すと聞かないの。お部屋にお茶をお持ちするよう言っておきますわ」
「ご丁寧にありがとうございます」
ベルはお辞儀をして、指定された部屋に入った。

第6話「作戦開始」

 丁度同じ時、ソレイユでは一人の兵士が慌しく公爵の居る執務室の扉を勢いよく開けた。

「ア、アージェント様!!」
「…どうした、その様に慌てて」
「はい、只今幹部よりフルール同盟国オーキャルが接近中の謎の彗星によって侵食されたとの報告が…」

その知らせにアージェントは書類を読む下を向いた瞼を上げ、耳だけを向けていた姿勢を兵士の方へと向きなおした。

「侵食?確かオーキャルでは本日付で新隊の任命式が行われていたはず…」
「はい、オーキャルの自国軍、民間、そして訪問していたフルールの軍隊は壊滅とのことです」
「そうか…ついに此処まで来たか…」
「はい、恐れていた事がついに…して、どのように…」
「ふふ、そう慌てるな」

アージェントはそういいながらゆっくり立ち上がり、慌てふためく兵士の肩にポンと触れては口端をゆるくあげた笑みを浮かべて自室を出て行った。
長く続く廊下をコツコツと早足の靴音を響かせながら進む途中すれ違った血相を変えながら慌しく駆け回る兵士達はまるで今起きている事の重大さを物語っているようだった。
靴音が止んだ扉の前で二つノックをするとゆっくりと部屋へ入っていった。

「…アージェントか」
「はい、国王…先日お話した事項にご決断を」
「……ああ、総ての指揮はお前に委ねる」
「有難う御座います、では早急に各国へ呼応を開始致します」

それからのアージェントの行動は早く、作戦内容は第五銀河惑星に所属する各部隊へと伝達された。

***

(一刻も早く彗星の妨害を…ソレイユへに行けばあの方がいる…モナミが尊敬し慕っていたあの方が……!)

ベルはモナミとの祝いの待ち合わせのためかベルは珍しく髪を下ろし少し色の明るい服を着ていたが、駆け出し走りながら勢いよく着ている服を破り捨てると下に着ていたいつもの戦闘用の軍事服になり、懐に入れていた紅色のゴムできつく髪を結んだ。
フルールを出てソレイユへと向かおうと息を切らしながら思いを一心に走った。
国王の許可なしには運行は出来ないと立ち入りを防ぐ兵士達を押しのけ搭乗機へと乗りフルールを飛び立った。

「徴兵令、徴兵令、国王軍第一騎士団ベルジュメル、至急国王室に来なさい」

フルール中にけたたましいサイレンとアナウンスが響き渡ったのは、止められなかった兵士達の視界からベルの乗った搭乗機の姿が見えなくなった頃だった。