第五銀河惑星

広い銀河の中心に一際輝く五つの星があった。 ソレイユ・フレイム・フルール・テール・ヴェント、この五つの星の総称「第五銀河惑星」 そして今、この第五銀河惑星に突如現れた謎の彗星が猛威を奮い接近していることが分かった。 この事実に対し第五銀河惑星…

第28話「心配」

夜風が頬をかすめて気持ちがいい。酒は呑んでないが、気分が高揚していて体が熱い。ベルは早朝にも鍛錬をしようと早めに呑みの席を立ったのだ。生真面目な性格だとつくづく自分でも思った。 この辺りは飲食街で、夜更けにもかかわらずまだ人通りが多かった。…

第27話「楽しい夜」

訓練場での出来事から数日後の夕刻、ベルは自室で外出の支度をしていた。 今夜はシオンの提案でアレス隊長メンバーであるアージェント、フォート、シオン、サヴァン、ベルの5人で懇親会をしようということになっている。 懇親会とはいっても場所はシオンの希…

第26話「本気」

訓練場にはすっかり和んだ空気が流れ出していたが、それを引き締めるように切り出したのはフォートだった。 「さて…と、俺はそろそろ訓練に戻るが…ベル、お前はどうする?」 質問は意外だった。 どうする、と言われるとこの後の行動を特に考えていなかったベ…

第25話「微笑み」

真っ白に輝く鳥が群れをなして青い空を駆けていく。 朝を告げるラッパの音が響き、人々が、街が動き出す。 ベルは頭の高い位置で髪をまとめ、朝の支度を終えた。 鏡越しの自分を見つめ、パンッと頬を叩き、気を引き締めた。 部屋を出てまずは食堂へ向かった…

第24話「星空の約束」

ベルがフォートと話し始めた丁度同じ頃、自室にいたアルメリアは浮かない表情を浮かべながら鏡台の椅子に腰をかけていた。 「(ねぇ、アージェント。この先世界は一体どうなってしまうのかしら...わたくしにも何かできることがあれば良いのだけれど)」 迫り来…

第23話「フリージア」

その後はそれぞれあてがわれた部屋に戻ることになった。 部屋へ戻るさなか、ベルは戸惑いを隠しきれなかった。 あなたの先祖は大変優秀な人でした、だからあなたが選ばれましたと言われても、はいそうですかというわけにはいかない。 先祖と同じ力を求められ…

第22話「神軍特別部隊アレス」

ベルからのまっすぐな質問とその力強い瞳が、自分をしっかりと捉えて離さないことにアージェントは嬉しくなり思わず口元に笑みを浮かべた。 「…ただの兵士、か。……それでは納得がいくよう説明しよう。他の皆も聞いてくれ」 アージェントはバラつきだした意識…

第21話「大役」

神軍特別部隊アレスの指揮官として就任を依頼、もとい命じられた面々の反応は様々だった。 フォートは任せろ!と拳を鳴らした。 サヴァンは腕を組んだ姿勢で落ち着いており、シオンは手を頭の後ろに当て、大変そうだなあなどと言った。 ベルだけが、驚きとプ…

第20話「誓い」

ソレイユ王とアルメリアの送迎を部下の兵に任せたアージェントは足早に作戦指令室へ向かった。 いつも冷静なアージェントにしては珍しく緊張し、焦っていた。 自室に戻る猶予はない、歩きながら考えを始めた。 まるで神話の様な敵を相手にするのだから相当の…

第19話「畏怖」

「ばかな…そのような事を許すわけが…」 「許す、許さないという問題ではないのですよ、ソレイユ王」 クヴァールはそう言い、踵を返そうとした時だった。奥間から不穏な空気を感じたアルメリアが聖堂の間へ来てしまったのだ。 「お父様…」 「アルメリア様!来…

第18話「宣告」

*** これは神軍のメンバーが揃った記念すべき日の5日程前の出来事だった。 麗らかな日差しがソレイユへ差し込むいつもと変わらない朝、アージェントはいつものように手早く支度を済ませると自室を後にした。 ソレイユ王に第五銀河の近況報告を行うのは大…

第17話「幕開け」

白い木に繊細な彫刻で縁取られた会議室の扉を開けて、その青年は現れた。 青年はすらりと脚が長く、薄紫色の短いマントをまとっている。 町中の女性から黄色い悲鳴が聞こえてきそうな、不思議な魅力を持っていた。 「あれ、みなさんもうお揃いで。遅刻しちゃ…

第16話「集合」

朝露が木々の葉を濡らす涼やかな朝、招集令状によってソレイユへ集った者達は指定された会議室へ足を運んだ。 集まったメンバーはアージェント、ベル、フォート、サヴァンの4名だった。 アージェントは他の2人と顔見知りのようでそれぞれに挨拶をしていた。…

第15話「愚弟」

穏やかな気温で、木々が青々しく風に揺れるある日のことだ。ソレイユ王の使いとしてアージェントがヴェントへ視察に訪れるため、ヴェント国内は警備を強化し、ピンと張りつめた意識が漂っていた。 重厚な空気をまとい、アージェントは2名の従者を連れて来訪…

第14話「風の星ヴェント」

活気のある港から爽やかな風が街中へ流れ込む星、ヴェント。第五銀河惑星の5つ目の星である。 港を中心とした賑やかで明るい人々の行き交う街は表向きの姿であり、金の亡者と化したこの星を統べるヴェント王、第一子息のスロウス王子の命ずる様々な税や天上…

第13話「一路平安」

穏やかな陽の光が窓から注ぎ、テーブルの食事を鮮やかに彩っている。サヴァンはひと通り本を片づけると黙々と食事を始めた。 カルミアは対面する席に座り、招集令状についてしまった折り目を伸ばしながら、かつてアージェントからの講師依頼を引き受けるよう…

第12話「友人」

*** 「手紙…?差出人はアージェント・ブラン……ブラン?」 ブランといえば他の星に住む者も知る光の国ソレイユのブラン家。大変な名家であり、そのブラン家第一子息アージェントよりサヴァンの元に手紙が届いたのは今から3年前の事だった。 手紙の内容は【…

第11話「土の星テール」

学問が発展している星といえば、土の星テールだといってまず間違いはない。 文学、医学、史学…あらゆる面から深い知識を持つ優れた人物の称号が「博士」だ。博士には全部で五段階のランクがある。第五級博士は山のようにいるのだが、ランクが上がるにつれて…

第10話「幼馴染み」

*** 朝日が眩しく木々の間から差し込むさわやかな春の朝。川沿いにある大きな木の下で5歳のフォートが赤い髪を目立たせ、日差しにキラキラと汗を光らせていた。 「…ふぅー……」 休憩がてら木陰に座り込み傍に置いたタオルで汗を拭いていると、透き通る川の水…

第9話 「炎の星フレイム」

血の気の多い男が集まると喧嘩が絶えないのは世の常だ。きっかけはどれも些細なことで、決着がつく前に原因を忘れていたりすることもある。今回の騒動も誰が最初に起こしたことなのかもう分からなくなっていて、大勢で殴り合っていた。その中でもひときわ目…

第8話 「公爵の考え」

アルメリアとアージェントの姿を見送るとベルは言われたとおりに部屋に入った。部屋に入るもどこか落ち着かず室内を目視程度に見ていると、小さなノックの音と共にアルメリアの言っていたお茶が運ばれてきた。召使の女性は二人分のお茶を用意しながら、どう…

第7話「神殿の姫君」

ソレイユに不時着した小型機から飛び降りてベルはこの国で一番大きな建物を目指して走った。雪よりも白く今にも雲に届きそうなほど大きな建物は神のいる神殿だといわれている。そこにアージェントもいるだろうと確信していた。なぜなら、彼は大神直属の軍の…

第6話「作戦開始」

丁度同じ時、ソレイユでは一人の兵士が慌しく公爵の居る執務室の扉を勢いよく開けた。 「ア、アージェント様!!」「…どうした、その様に慌てて」「はい、只今幹部よりフルール同盟国オーキャルが接近中の謎の彗星によって侵食されたとの報告が…」 その知ら…

第5話「最悪な事態」

オーキャルは銀河で最も清らかな湧き水やエメラルドのように輝く小川が流れることから別名を水の都と呼ばれている。小さな星であるために、オーキャル国軍はとても規模が小さく、自衛機能として足りていない。そのため同盟国のフルールに一部財政利益を渡す…

第4話「速報」

モナミの小隊長任命式目前としたある日、統一国ソレイユでは、近頃発見されたこの第五銀河惑星に接近中の謎の彗星についての会議が行われていた。 「…以上です」「では随時彗星の観測を怠らぬように」「はい…隊長、余談ではありますがフルールの同盟国のオー…

第3話「予感の時」

やがてふたりは訓練生としての鍛錬を終え、一国王軍騎士となっていた。 席について食事を始めたばかりのベルに、モナミが大きな音を立てて扉を開け、息を切らせながらやってきた。「モナミ、一体何の騒ぎ?」「私、国王軍の小隊長に抜擢されたの!」「ほんと…

第2話「外れた道」

フルール一の大きさを誇る大神殿。穢れのない真っ白い色に包まれたその清楚な概観は、第五銀河惑星統一国ソレイユをイメージして作られたという。その真っ白な神殿の中心を表す巨大な扉は今回の公爵訪問のような大きな催し物でもなければ滅多に開かれること…

第1話「騎士団訓練生」

ベルは今年で16歳になる。騎士団の訓練生として小部隊に所属する女子は少なくなく、ベルもその中の一人だ。幼馴染であり親友のモナミとふたりで日々競い合っては腕を磨いていた。訓練生のなかでベルとモナミは抜群に優秀で、そこらの男と剣で勝負して負け…