ASUKA

第28話「心配」

夜風が頬をかすめて気持ちがいい。酒は呑んでないが、気分が高揚していて体が熱い。ベルは早朝にも鍛錬をしようと早めに呑みの席を立ったのだ。生真面目な性格だとつくづく自分でも思った。 この辺りは飲食街で、夜更けにもかかわらずまだ人通りが多かった。…

第25話「微笑み」

真っ白に輝く鳥が群れをなして青い空を駆けていく。 朝を告げるラッパの音が響き、人々が、街が動き出す。 ベルは頭の高い位置で髪をまとめ、朝の支度を終えた。 鏡越しの自分を見つめ、パンッと頬を叩き、気を引き締めた。 部屋を出てまずは食堂へ向かった…

第23話「フリージア」

その後はそれぞれあてがわれた部屋に戻ることになった。 部屋へ戻るさなか、ベルは戸惑いを隠しきれなかった。 あなたの先祖は大変優秀な人でした、だからあなたが選ばれましたと言われても、はいそうですかというわけにはいかない。 先祖と同じ力を求められ…

第21話「大役」

神軍特別部隊アレスの指揮官として就任を依頼、もとい命じられた面々の反応は様々だった。 フォートは任せろ!と拳を鳴らした。 サヴァンは腕を組んだ姿勢で落ち着いており、シオンは手を頭の後ろに当て、大変そうだなあなどと言った。 ベルだけが、驚きとプ…

第17話「幕開け」

白い木に繊細な彫刻で縁取られた会議室の扉を開けて、その青年は現れた。 青年はすらりと脚が長く、薄紫色の短いマントをまとっている。 町中の女性から黄色い悲鳴が聞こえてきそうな、不思議な魅力を持っていた。 「あれ、みなさんもうお揃いで。遅刻しちゃ…

第15話「愚弟」

穏やかな気温で、木々が青々しく風に揺れるある日のことだ。ソレイユ王の使いとしてアージェントがヴェントへ視察に訪れるため、ヴェント国内は警備を強化し、ピンと張りつめた意識が漂っていた。 重厚な空気をまとい、アージェントは2名の従者を連れて来訪…

第13話「一路平安」

穏やかな陽の光が窓から注ぎ、テーブルの食事を鮮やかに彩っている。サヴァンはひと通り本を片づけると黙々と食事を始めた。 カルミアは対面する席に座り、招集令状についてしまった折り目を伸ばしながら、かつてアージェントからの講師依頼を引き受けるよう…

第11話「土の星テール」

学問が発展している星といえば、土の星テールだといってまず間違いはない。 文学、医学、史学…あらゆる面から深い知識を持つ優れた人物の称号が「博士」だ。博士には全部で五段階のランクがある。第五級博士は山のようにいるのだが、ランクが上がるにつれて…

第9話 「炎の星フレイム」

血の気の多い男が集まると喧嘩が絶えないのは世の常だ。きっかけはどれも些細なことで、決着がつく前に原因を忘れていたりすることもある。今回の騒動も誰が最初に起こしたことなのかもう分からなくなっていて、大勢で殴り合っていた。その中でもひときわ目…

第7話「神殿の姫君」

ソレイユに不時着した小型機から飛び降りてベルはこの国で一番大きな建物を目指して走った。雪よりも白く今にも雲に届きそうなほど大きな建物は神のいる神殿だといわれている。そこにアージェントもいるだろうと確信していた。なぜなら、彼は大神直属の軍の…

第5話「最悪な事態」

オーキャルは銀河で最も清らかな湧き水やエメラルドのように輝く小川が流れることから別名を水の都と呼ばれている。小さな星であるために、オーキャル国軍はとても規模が小さく、自衛機能として足りていない。そのため同盟国のフルールに一部財政利益を渡す…

第3話「予感の時」

やがてふたりは訓練生としての鍛錬を終え、一国王軍騎士となっていた。 席について食事を始めたばかりのベルに、モナミが大きな音を立てて扉を開け、息を切らせながらやってきた。「モナミ、一体何の騒ぎ?」「私、国王軍の小隊長に抜擢されたの!」「ほんと…

第1話「騎士団訓練生」

ベルは今年で16歳になる。騎士団の訓練生として小部隊に所属する女子は少なくなく、ベルもその中の一人だ。幼馴染であり親友のモナミとふたりで日々競い合っては腕を磨いていた。訓練生のなかでベルとモナミは抜群に優秀で、そこらの男と剣で勝負して負け…