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第2話「外れた道」

 フルール一の大きさを誇る大神殿。
穢れのない真っ白い色に包まれたその清楚な概観は、第五銀河惑星統一国ソレイユをイメージして作られたという。
その真っ白な神殿の中心を表す巨大な扉は今回の公爵訪問のような大きな催し物でもなければ滅多に開かれることはない。
ベルはそんなことを薄々と考えながらモナミの後に進むと正面扉に行くはずの道が徐々に逸れている事に気がついた。

「モナミ、こっちじゃな…」
「いいのいいの!」

云われるがまま外れた道を進めばそこは丁度神殿の裏口にあたる場所だった。
そのまま前に進もうとするベルの袖をモナミは慌ててグイと引っ張りその場の茂みにしゃがみこんだ。
ベルがモナミへ問いかけようとした時、足音と共に数人の話し声が聞こえてきた。

「……ええ、その様にお願い致します」
「ああ」

小さな手帳の様な冊子を捲りながら傍らに言葉を話す執事と思われる男性と、背が高く透き通る様な白金の長髪に凛とした表情をのせた端正な顔立ちの男性が目の前を通り過ぎようとしていた。
他人に余り興味を持たないベルもその男性の放つ気品と圧倒されるような風を纏う姿に思わず目を奪われてしまった。
同時にその姿に見惚れ瞳を輝かせたモナミが我を忘れ前へ進もうと茂みに足を踏み入れると、辺りに小さく草音が響いた。

「そしてフルールの民への挨拶の後、国王との会食に………何奴!」

執事と思われる男性の一声であっと云う間に何処からか現れた兵士が二人を囲んだ。
二人は突然の出来事に驚き目を見開いた。
すると此方に気づいた男性が兵士達へ視線を送った。

「やめなさい、彼女たちは私の連れだ」

すこし低めの声がそう告げると兵士たちはすぐに手を引き姿を消した。
コツコツと靴音をならしながら二人のもとへ歩み寄ってきた。
二人は慌ててその場に立ち上がりお辞儀をした。

「私の部下が無礼な事をしてすまない、恐い思いをさせたな」

ふわりと微笑みながら二人へ言葉をかける姿はとても綺麗で優しい印象だった。
モナミは頬を真っ赤に染め、瞳を輝かせながらハキハキと答えた。

「い、いえ!私はフルール国王軍第一騎士団訓練生モナミと申します!女では在りますが、ソレイユのアージェント公爵の様に強く、フルール一の剣士になれる様日々訓練しています!」
「同じくフルール国王軍第一騎士団訓練生ベルジュメルと申します。」

続いてベルも月並みの台詞で挨拶をしてまた深くお辞儀をした。
二人の様子に少し驚いたのか幾数か瞬きを早めにしてクスと鼻先で笑い二人に話した後、執事と思われる男性に向かって小さく呟いた。

「そうか…私の名はアージェントだ。私も二人に負けぬ様日々精進しよう。
 ……将来が有望だな…この星に私の助け等いらぬのだろう」
「ア、アージェント様何を…」
「ふふ、戯れだ、ではそろそろ行こうか」
「は、はい…では此方へ」

金の糸の様に美しい髪を風にゆるくなびかせながら神殿へ向かう後姿を見送るとモナミはその場にゆるゆると座り込んだ。

「モナミ…?!」
「ふぅー…緊張したぁ…すごい迫力だったね……」
「あ、うん…あれがモナミの言ってた公爵様か…」
「そう、ブラン家第一ご子息のアージェント様、そして20歳の若さで神軍を率いる神に一番近いと言われている人…」
「神軍第一隊長アージェント・ブラン…」

少しずつ茜色に染まり始める空と草木をほのかに揺らす風がそよぎ始めるなか、ベルは同じように頬を赤く染めながら話すモナミの横顔をゆっくりと見つめた。