第3話「予感の時」

 やがてふたりは訓練生としての鍛錬を終え、一国王軍騎士となっていた。

席について食事を始めたばかりのベルに、モナミが大きな音を立てて扉を開け、息を切らせながらやってきた。
「モナミ、一体何の騒ぎ?」
「私、国王軍の小隊長に抜擢されたの!」
「ほんとうに!やったじゃない」
ベルは思わず立ち上がって手をたたいた。
「まさかこんなに早く昇進できるなんて思ってもなかった。信じられる?私たち訓練生を卒業してからまだ2年よ」
「モナミだからよ。やっぱり才能あるもの」
「馬を御すのはベルのほうが上手じゃない」
「いいの、私は戦うより散歩する方が好きだから」
「もう。ベルったら」
モナミは少し落ち着いて、侍女にコーヒーを淹れるよう頼むと、ゆっくりと席に着いた。ベルも続いて席に着くと、食事の続きを始めた。
「私はもっと強くなりたい。そしてアージェント公爵様に少しでも近づきたいの」
「アージェント公爵…」
ベルは3年前に見た公爵を思い出した。プラチナブロンドの長い髪の毛に、青い瞳が吸い込まれそうなほど澄んでいた。あの整った顔立ちと気品のあふれ出た物腰は、直接会話を交わした者は絶対に忘れることはできないほど強く印象に残るものだった。
モナミはあの日からアージェントの器量と強さに惹かれ、憧れと尊敬を彼に送らない日はなかった。
「小隊長を正式に任意されるのは来週の今日なの。ベルの19歳の誕生日とかぶっちゃったね。式が終わったらすぐに行くから、お祝いしようね」
「ありがとう、モナミ」

毎年当たり前に祝うお互いの誕生日を二人一緒に過ごせると信じて、疑う者がいるはずもなかった。