第5話「最悪な事態」

 オーキャルは銀河で最も清らかな湧き水やエメラルドのように輝く小川が流れることから別名を水の都と呼ばれている。小さな星であるために、オーキャル国軍はとても規模が小さく、自衛機能として足りていない。そのため同盟国のフルールに一部財政利益を渡す代わりに外星からの被害があった場合には援助を受ける条約を交わしていた。

この日は各騎士隊長の任命式が大聖堂で行われていた。
大聖堂の中にはオーキャルとフルールの各隊長とその隊員数名が集まっていた。皆、揃いの紅色のジャケットに銀のバックルをつけた黒いブーツ、上着と同色の縁なし帽をかぶって整列していた。
式も終盤になり、解散しようとした瞬間、耳を裂く様な轟音と悲鳴が辺りを埋め尽くした。縦に長い扉を勢いよく開けて入ってきたのはオーキャル国軍の隊員だった。
「失礼致します!た、只今、突如現れた黒い翼の謎の軍隊に襲撃されています!どうか出撃を…」
隊員は息を荒げながら言い終えるとその場に倒れ壁にもたれかかった。背中から流れる血が跡を引いていた。大聖堂の空気は一変し、不安と驚きに呑まれたがすぐさまフルール国軍の第一隊長は兵を配置し、残りの者にはフルールへの伝令を呼びかけた。
「モナミ、小隊長最初の仕事だ。やれるな?」
モナミは口の端を上げて勝気に笑った。
「もちろんです。必ず成果をあげてみせましょう」
一礼するとモナミは素早く現場へと向かった。

***

速報を見たベルは人ごみの中で立ち尽くしていた。
「オーキャルは完全に侵食されたらしい」
「隊長任命式に滞在してた隊員たちの生存者はいないって」
色々な情報がベルの周りで行き交っていたがどの音も聞こえていなかった。体中から血の気が引いていくのを感じた。足が地面に埋まったかのように重く動かない。微塵も想定していなかった最悪な事態が起こってしまったことをどう受け入れろというのだろう。ただ、スクリーンを見つめて呆然とするばかりだった。
そして、ふとあることに気づく。彗星はオーキャルを侵食したあと、そのまま去るとは思えない。次の標的はすぐ隣のフルールなのでは…?
そうだとしたらこちらは絶対に不利な戦いになる。フルール国王軍はほとんどオーキャルに行っていたのだ。その軍が壊滅したのだとしたら、自国に残ったわずかな兵で向かうしかない。
「どうにかしなければ…フルール国王の指示を待っていたら間に合わない…!!」