第8話 「公爵の考え」

アルメリアとアージェントの姿を見送るとベルは言われたとおりに部屋に入った。
部屋に入るもどこか落ち着かず室内を目視程度に見ていると、小さなノックの音と共にアルメリアの言っていたお茶が運ばれてきた。
召使の女性は二人分のお茶を用意しながら、どうぞおかけになってお待ちくださいねと言って微笑みを向けた。
ベルは口元を緩ませた笑みで会釈をし礼をするもその場に腰掛けることはなかった。
召使の女性が部屋を出て数分後、アージェントが戻ってきた。

「すまない、またせたな」
「いえ、大丈夫です」
「そうか…まずはそこに座り少し休むと良い、話はそれからでも良いだろう」

フルールという別の星から来たベルの事を思ってか、微笑みを携えつつ言葉をかけながらアージェントはベルのために用意されたお茶の席の向かいに座った。
しかしベルは一向に席に着こうとはせず、アージェントをまっすぐに見つめた。

「お心遣いありがとうございます…ですが私がその様に悠長に構えては居られないのです、一刻を争う事態が我がフルールを…!」

ベルはブロンドの大きな瞳を揺らし、強い気迫に満ちた表情を向けた。その姿はアージェントの透き通るクリアブルーの瞳にしっかりと映っていた。
アージェントはゆっくりと瞬きをひとつするとベルを見つめた。

「ああ、その話も勿論私の所に報告が来ている。まずは其処に座り私の話を聞いてくれないだろうか」

ベルはハッとした表情を浮かべるもはいと返事をしてようやく席に着いた。
アージェントは自分の前にあるお茶を一口飲むとゆっくりと話し出した。

「まずは今、謎の彗星がこの第五銀河惑星を目掛けて接近している中、ついに今回の侵食が始まってしまった。飲み込まれたのは存じている通り、フルール同盟国のオーキャルだ。それに伴い燐星のフルールが同時に危険となる…が、しかしその前に我々にも手立てを打てるチャンスがあることが判明したのだ」
「…それはつまりフルールを救う手立てが…?!」
「ああ、フルールどころか…この第五銀河惑星を、だ」
「…で、ですが作戦を立てている間に彗星に動きがあっては…」
「その彗星なのだが、つい先程報告が入りなにやら急に動きを一度止めているとの事だ。恐らく向こうにも何か考えが在るのだろう」

彗星の動きが止まったとの情報にベルは肩を撫で下ろした様に安堵の息を薄く吐いた。
その様子にアージェントはふふと少し笑みを浮かべて再び語りだした。

「そしてこの僅かな時を使い私が指揮をとり戦術を練ることになったのだ。しかし実はその策はもう立ててあってな…」
「さすがアージェント公爵様ですね…して、その策とは…」
「ふふ、それは皆が揃ってから述べるとしよう。その前に言っておくがこの策には私の考える有能な人員が必要であり…ベルジュメル、君を召集したのもそのためだ」
「……召集?私は自らの意思で此処に参りました、召集などは聞いていませんが…」
「ああ、知っている。先程フルールの上層から連絡があった…既に発った、と。国の危機の為に真っ先に此処へ向かったのだろう?さすが私の見込んだ者だと関心した」

そういってアージェントは目を細めて優しく微笑んだ。
ベルは自分の行動に少し気恥ずかしさを覚えつつもアージェントの表情と言葉をうけて口元を緩めて微笑み返すと慌てて礼を言ってお辞儀をした。

「アージェント公爵様、有能な人員とはほかに…」
「ああ、君と私を除きあと3名程の召集を考えてる」
「あと3名…じきに此処へ?」
「その予定だ」

アージェントは徐に傍らに置いていた書類を手に取るとゆるりと目を通し口元の笑みを携えたままガラス張りの大きな窓の向こうを見つめた。