第9話 「炎の星フレイム」

血の気の多い男が集まると喧嘩が絶えないのは世の常だ。
きっかけはどれも些細なことで、決着がつく前に原因を忘れていたりすることもある。今回の騒動も誰が最初に起こしたことなのかもう分からなくなっていて、大勢で殴り合っていた。その中でもひときわ目立って暴れている男がいた。むきになって突っかかってくる相手を軽々と投げ飛ばしている。
燃えるような赤い髪の毛を立て、背が高くたくましく整った体つきをした彼は、お祭りのように楽しんでいた。
彼の名はフォート。
炎の星、フレイムの国王軍第一隊長である。フレイムでフォートのことを知らない人はほとんどいない。庶民の生まれで第一隊長になるほどの強さを持ち、何より人柄の良さが彼の人望と信頼を集めていた。ただ、やんちゃで喧嘩っ早い性格はどうにも直らず、小さな頃から毎日傷をこさえてくるので身内の人間は心配していたらきりがなかった。
「なんだ、もうかかってくる奴ぁいねえのか?」
フォートはいたずらっぽく笑いながら叫んだ。
「そんなこと、言ったって、フォート、お前が、強すぎるんだよ」
近くに座り込んだ男が息を切らせながら言った。
「あーまだ暴れたりねー。もっと楽しませてくれる奴はいねぇのかよ。なんかでっけぇ事件でもおきねーかな」
酒樽の上にどっかと片足を曲げて座り、タバコとマッチを手にとった。
殴られたまま寝転がっていた別の男が口を開いた。
「…そういえば、フォートに国王の召集伝令がかかってたぞ」
「は?」
「ああ!そうだ、思い出した!それを伝えようと思ってここに来たんだった。もう騒ぎが始まってて止めようとしてたら俺も混じっちゃって忘れてた!」
「ばかやろ!お前言うのがおせーんだよ!!」
フォートは慌てて飛び上がると一直線に宮殿へ走っていった。

***

「フレイム国軍第一隊長フォート、只今参りました」
「ずいぶんゆっくりな到着じゃないか」
深紅の絨毯が続いた向こうに座っているのはりりしい眉毛と、眉間に深いしわをつけた貫禄のあるフレイム国王だ。
「大変申し訳ございません、陛下」
フォートは頭を下げたが、国王は言葉にしたよりもさほど気にしていないようだった。
「まぁ、よい。お前のことだ、また騒ぎに首を突っ込んでいたのだろう。それを止めるのもお前の仕事だというのに…いや、今日はこのような話のために呼んだのではない。フォート、お前に新たな任務を命ず」
フォートは短く返事をして、片膝と右手の拳を床につけた。
「任務は彗星の撃退である。この任はソレイユ国軍第一隊長が指揮をとっている。第五銀河惑星の中で突飛した能力を持つ者が手を組む必要があるらしいのだ。詳しい話は直接聞け。手筈は整えておる、すぐにソレイユへ向かえ」
「かしこまりました」

宮殿の長い廊下を歩いていると、軍の下っ端の男が声をかけてきた。
「お、フォートさん。今回の任務はどんなのだったんですか?」
綺麗に磨かれた鎧をきたその男は、目を輝かせていた。
「悪い、かなりでけぇ任務だからな、あんまり口外できねんだ。ところで、アージェントから俺あてになんか連絡きてるか?」
「アージェントって…まさか、ソレイユ神軍第一隊長のアージェント・ブラン!?」
「なんだ、お前妙に詳しいな」
「常識ですよ!第五銀河惑星の統一国ソレイユの第一隊長だなんて憧れない奴はいないです!あの神軍ですよ!?そんな人から連絡がくるかもしれないフォートさんもやっぱりすごいです」
「……で、連絡は来てないんだな?」
「はい!来てないです」
(前置きが長ぇんだよこいつは)
フォートは少し吹き出して笑った。男の驚きと尊敬の目を見ていると、いつものいたずら心がうずいた。
「お前知らないの?」
「何をですか?」
「あいつちっこい頃は女に間違われること多かったんだぜ」
「へ?何でそんなこと知ってるんですか?」

フォートは笑いながら、去り際に言い放った。

 

「俺、あいつと幼馴染みだから」
下っ端の男は目が飛び出るほど驚き、立ち尽くしていた。