第11話「土の星テール」

学問が発展している星といえば、土の星テールだといってまず間違いはない。

文学、医学、史学…あらゆる面から深い知識を持つ優れた人物の称号が「博士」だ。
博士には全部で五段階のランクがある。第五級博士は山のようにいるのだが、ランクが上がるにつれて人数は減り、第一級博士はほんの一握りしかいないのだ。

テールのとある小さな田舎町に博士の称号をもつサヴァンという青年がいた。都会の方が学べる場所は沢山あるし情報も行き交っているため博士といえば都心にいることが多い。
しかし彼は田舎に生まれ田舎で育ち、博士の称号を得ていた。しかも第一級レベルだ。彼は、優れた学者に教えられるでなく、ほとんど答えを自分で編み出していた。
サヴァンは色々な方向に跳ね返った黒髪を片手でかいて、読んでいた紙の束を無造作に机に投げた。かけていたモノクルを外し、ふうと息をついたところで、家のチャイムが鳴ったので扉へ向かった。
木造の小さな彼の家の中は、本や紙束で埋まり、足の踏み場に困るほどだ。
訪問者はカルミアだった。彼女は艶のある長い髪をゆるくひとつに束ね、果物やパイが入った籠を手に持っている。

「大丈夫?サヴァンのことだから、ここのところろくに食事もしていないんでしょう。研究もいいけれど食事はきちんととらないと。いくらか持ってきたから少しは食べてちょうだい」
研究や読書に没頭すると、身なりどころか食事や睡眠まで頓着しないところが彼の悪いところだ。

サヴァンは、うーん、と気のない返事をした。食欲より読書欲のほうがはるかに勝っていたからだ。食事用のテーブルの上も数式を書きなぐった紙の束や本で山積みで、とうてい食器を広げられるような場所などない。食事のスペースをあけるよう叱られ、しぶしぶテーブルの上を片づけた。こういうときにカルミアに逆らわないほうがいいことをサヴァンは知っていた。

普段は大人しいのだが、1度言い出したらよほどの事がない限り意思を曲げないのだ。

 

サヴァンがテーブルに積まれた本を片づけていると、1枚の紙が落ちた。カルミアは落ちた用紙を拾うと目を丸くした。

サヴァン、これ…大変なことじゃないの」

カルミアが拾ったものは召集令状だった。テール国の国印が押されている。

「ああ、それは気にしなくていい。召集に応じる気などないから安心してくれ」

サヴァンは当たり前のように言うとカルミアが持っていた召集令状を手に取り、ゴミ箱へ投げ込んだ。