第13話「一路平安」

穏やかな陽の光が窓から注ぎ、テーブルの食事を鮮やかに彩っている。サヴァンはひと通り本を片づけると黙々と食事を始めた。

 

カルミアは対面する席に座り、招集令状についてしまった折り目を伸ばしながら、かつてアージェントからの講師依頼を引き受けるよう説得したことを思い出していた。

令状の内容を読む限り、詳しいことは省かれているものの、かなり切迫した状況であることが見て取れた。

 

「何かとても大変なことが起こっているのではないの?国からの招集だなんて…」

カルミアサヴァンを真っ直ぐ見つめた。彼は伏せていた目を上げ、ゆったりとした態度で腰掛け直した。

「国というよりアージェントからの招集だよ。彗星のことがあるからね、大方また知識を貸してほしいというところだろう。しかし彼には以前講師をした際にざっくりだけれど重要なことは教えているし、聡明な男だからきっと切り開いていくだろう。…それに、代々、力は弱まってしまっているし…ともかく、私が赴く必要はないと判断したんだ」

彼は一瞬自信なく小言を言ったように見えたが、最後はきっちり断言した。

「アージェント様が優秀な教え子だということはわかるわ。けれど、それでもサヴァンに力を貸してほしくてご連絡が来たのではないかしら。彼は、あなたの友人なのでしょう?友人は大切にしなくてはね」

カルミアは優しく微笑んだ。彼はこの笑顔にめっぽう弱い。ただ今回に関しては少しばかり反論した。

「友人であることには違いない。しかしこの招集に応じてしまえば、すぐにここへ戻ることができない。彗星の危険が迫っているいま、君に万が一のことが起こってしまったらと思うと気が気じゃないんだ」

「ふふ、サヴァンは優しいわねえ。私もサヴァンが遠い地で何か危険な目に合うかもしれないと思うと胸がとても痛いわ」

カルミアは、テーブルの上に置かれたサヴァンの左手の上に自分の右手を重ねた。

小さく息をついて、ゆっくりまばたきをした。翡翠色の瞳はじっとこちらを見つめ、次の言葉を待っている。

「きっと、きっとね、アージェント様の力になれるはずよ。ずっとそばで見てきた私が誰よりあなたの才能を信じているわ。テールだけじゃない、この世界すべての危機を救える。そうでしょう?もしここに残ってもいつかあなたは後悔するわ。離れるのは辛いけれど、私なら大丈夫よ。あなたの帰りをここで待っているから、ね」

カルミア…」

サヴァンは立ち上がり、彼女を抱きしめた。

こうやってあなたを説得するのは何回目かしらね、と彼女は目尻を潤ませながら笑った。

しばらくしてサヴァンが言った。

カルミア、君には敵わないよ。他の惑星のことより君が無事かどうかが問題なんだ。けれどそこまで言うのなら、君に害が及ぶ危険要素を前線ですべて無くしておくことにする」

 

 

翌日、まだ日が昇り始めたばかりの靄がかかった朝に彼は馬車に乗って発つ。行くと決めたら馬車の手配と旅支度はとても早かった。

「戻ってきた時に何が食べたいか考えておいてね。腕によりをかけて美味しいものを用意するから」

「ありがとう。それじゃあ、いってくるよ」

名残惜しむように抱擁をし、馬車へ乗り込んだ。

丘の向こうへ見えなくなるまで、彼の乗った馬車を見送った。

 

「必ず、無事に帰ってきてね…」