第18話「宣告」
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これは神軍のメンバーが揃った記念すべき日の5日程前の出来事だった。
麗らかな日差しがソレイユへ差し込むいつもと変わらない朝、アージェントはいつものように手早く支度を済ませると自室を後にした。
ソレイユ王に第五銀河の近況報告を行うのは大神殿と決まっていた。アージェントが神殿へ入ると、既に王も神殿に着いており、ソレイユの民を見守るように祀られた大きく真っ白なマリア像の前に静かに立っていた。アージェントは王の前に片膝をつき、ひざまずく姿勢になると馴染みの報告を始めた。
「…現状、各星にて大きな問題は起きておりません。報告は以上となります」
「そうか、ご苦労であったアージェント」
いつものように報告は終わるはずだった。王が話を終えようとした時、アージェントはこれまで感じたことのない禍々しい気があたりを纏うのを感じ警戒した。その瞬間、神に守られていると名高いこの大神殿が大きく縦に揺れだした。
ゴゴゴ…と地響きを鳴らして揺れる様子に只事ではないと察したアージェントは護衛の兵へ王を退去させるよう大声で命じ、自身も歩みを進めようとしたその時だった。
突如、ソレイユ王とアージェントの間に黒色の光が集まり渦ができたかと思うと、その渦の中から漆黒の羽を携えた2人の人物が現れた。
一人は男性で背丈は180cmをゆうに越し、髪は長く漆黒の色をしている。肌は褐色で露出している肩や腕には黒色の紋章の様な模様がいくつも描かれていた。頭には捻れた立派な角が左右に生えており、前髪も長くアシンメトリーで左半分が髪によって隠れているが、見えている片方の目は鋭く切れ長で血の様な赤色の眼をしていた。男はアージェントと目が合うと鋭い犬歯を覗かせながらニタリと笑いかけた。
二人目は女性で背丈は160cm程でさほど大きくはないが、纏うオーラが凄まじく只者ではない事を感じさせた。肌は白いものの胸元や太ももが丸出しの露出の多い鎧のような服を着ており、紋章のような模様は女にも描かれていた。また男同様に漆黒の色をしたまっすぐの長く美しい髪に、よく似た角が生えていた。女は濃い目の化粧を施したはっきりとした目鼻立ちが目立つワンレンの前髪をしており、男とよく似た血の様な赤色の瞳でこちらをジロリと見つめた。
「な、何者じゃ…!」
ソレイユ王は突如現れた2人組に驚き後ずさりしつつ問いかけた。
すると男のほうが口元に緩く笑みを浮かべ王へ会釈した。
「お初にお目にかかります、ソレイユ王。私の名はクヴァール。そしてこれは側近のロイエです。…そうですねぇ……我々はあなた方の歴史上の言い方をすると”黒翼の軍勢”でしょうか」
クヴァールと名乗る男が不気味な笑みをのせて挨拶をすると、その言葉にソレイユ王は驚愕し、僅かに震えていた。
「こ、黒翼の軍勢…じゃと?!……言い伝わる者達であれば大昔に…先祖の代で封印したはずじゃが…」
王の言葉をきくとクヴァールは喉の奥をククと鳴らし笑みを零しては、目を細め続けた。
「ええ、確かに我々はあなた方に封印されました。…ですが、ようやく目覚めたのです。…封印は時と共に解かれ、私達は再び蘇ったのです」
黒翼の軍勢についてはアージェントも知っていた。もちろん先祖によって封印されたことも。サヴァンによる家庭教師を受けていた時に学んだ歴史の一つだった。
アージェントはその歴史上の逸話だと思っていた者が目の前にいるという事実をようやく受け入れるとクヴァールに話しかけた。
「再び蘇り、一体何をしようというのだ!」
敵意の目をしたアージェントが一歩前へ踏み出そうとすると、すかさず側近のロイエがアージェントの方を指差し、指先へ集まる紫色の光をアージェントの足元へ放つと瞬く間に床の一部を破壊した。
「大人しくしてな、ボウヤが出る幕じゃないよ」
凛とした声色で制されるとアージェントはクッと堪え動けずにいた。
幼子を見るような目でアージェントを流し見るも再び王へ目を向け、クヴァールは続けた。
「…次の日食がソレイユを闇で覆う日、我々がこの星…いや、この世界を頂戴します」