第19話「畏怖」
「ばかな…そのような事を許すわけが…」
「許す、許さないという問題ではないのですよ、ソレイユ王」
クヴァールはそう言い、踵を返そうとした時だった。奥間から不穏な空気を感じたアルメリアが聖堂の間へ来てしまったのだ。
「お父様…」
「アルメリア様!来てはなりません!」
アージェントが声をあげ、剣を構えた。アージェントのただならぬ様子にアルメリアは体を強張らせた。
アルメリアの姿を目にした瞬間、クヴァールは全ての生き物が身の毛もよだつような笑みを浮かべた。息ができなくなるような、不安と畏怖がまとわりついた笑みだった。
アルメリアは射抜かれたように足先から背筋までが冷え、手が震え、足がすくんだ。
ソレイユ王も同じなようで、動けずに唇が青ざめている。
アージェントにも戦慄が走り、咄嗟に矢のような速さで斬りかかった。しかし、その瞬間にクヴァールとロイエの姿は漆黒の渦の中に消えていった。
アージェントの剣が空気を切り、切っ先が床に着いた。そこには、黒の羽が数枚落ち、現実を物語る証拠が残されているだけだった。
黒翼の軍勢。解かれた封印。日食の時。
そして、アルメリアを見た時の、あの血の気の引くような笑顔。
本当に昔の言い伝えである者が現れたのだとしたら。
アージェントは、青ざめたソレイユ王に向き直り、口を開いた。
「ソレイユ王、どうか、招集命令の許可を。一刻も早く各地の能力者を集めねばなりません」
ソレイユ王は震えた唇を抑えながら目を見開いた。
「始まってしまったというのか…招集を…許可する」
ソレイユを日食の時にもらうと言っていた。
期日は日食。
なんとしてもそれまでに対策を打たねばならない。逆を言えば、次の日食まで猶予があるという事だ。
言い様のない気味の悪さが駆け巡り、アージェントの額には一筋の汗が流れた。