第27話「楽しい夜」

訓練場での出来事から数日後の夕刻、ベルは自室で外出の支度をしていた。

今夜はシオンの提案でアレス隊長メンバーであるアージェント、フォート、シオン、サヴァン、ベルの5人で懇親会をしようということになっている。

 

懇親会とはいっても場所はシオンの希望でお城等ではなくソレイユの城下町にある酒場で、町の人々や旅の者達が集い常に賑わっている場所だ。

アージェントは会そのものに不服はないものの、不慣れな場所である為かいささか気乗りしない様子だったが、ベルはもともと町娘であったため堅苦しい雰囲気よりもそういった場所の方が気が楽で、内心ホッとしていた。

 

支度を済ませ町へ出るとそこはとても賑やかで活気に満ちており、人々は皆笑顔で行き交っていた。優しさと陽気さに包まれながらベルは酒場へ歩みを進めつつ幼馴染と過ごした故郷のフルールを思い出していた。

 

「あ!ベル~こっちこっち!」

 

酒場のドアを開け辺りを見回していると聞き覚えのある声が自分を招いてくれたのでそちらへ向かった。

 

「お疲れさま、迷わずに来れた?あ、何飲む?」

「ありがとうございます。はい、素敵な町でしたので楽しく来れました!あ、っとー…ではアップルジュースで…」

「へぇ…お酒飲まないの?」

「あたりまえです!私まだ未成年ですから!」

「あはは、そうだったね~ごめんごめん。…あ、すみませんこの子にアップルジュースをひとつ」

 

歳の近い2人はまるで兄と妹のように見えていた。

シオンとベルはしばらく他愛もない会話をしていると聞きなれた声が豪快に話しかけてきた。

 

「お!やってんな~~?いいねぇ。シオン、ここいい感じじゃねぇか。お前ナイスチョイスだぜ!…おっさん!俺にも酒たのむ!」

 

いつにもまして陽気な様子で現れたのはこの酒場があまりにも似合いすぎるフォートだった。

 そんなフォートの様子にベルは内心(この前の鋭い目つきは見間違いだったのかしら…)と思っては可笑しくなりクスっと笑みを零していた。

 

そして程なく現れたのは、明らかにつまらなそうな表情のサヴァンと若干疲れたような表情を浮かべているアージェントだった。

 

「アージェントとは途中で会いましてね、同じ目的地ですし一緒に来たんですよ。……それにしても…騒がしい店ですね」

「ああ…遅れてすまない。サヴァンと合流できた事は本当に幸いだった…。いや、その…なぜか町の皆に囲まれてしまってな」

 

アージェントはソレイユでは知らぬ者はいない程の有名人であり、端麗な容姿から女性たちからも絶大な人気を誇っている。

そのため突然のアージェントの登場により町はいささか混乱になりかけていた。

サヴァンと合流できたおかげでうまく巻くことができたと安心しているようだった。

酒場には幸い女性は少なく、騒ぎ立てる者も居らず密かに見つめている程度だった為アージェントも安堵の表情になっていった。

 

 ようやく全員が集まり懇親会という名の通り、それぞれが身の上話をしたり、これからの行動について話したりと仲を深めていった。

 

・・・・・・

 

「ベルのそれ旨そうだな、1口くれよ」

「え、これ?じゃあ今お皿に分けるから待ってて」

「…待てねぇ」

「あ!ちょっとフォート!しかもそれ全然1口じゃない!」

 

 

「ベルは何かと手際が良いな。家事等も得意なのか?」

「え?アージェント様 あ、ありがとうございます!家事は故郷の家で手伝う程度でしたが行っていました」

「そうか。何事も鍛錬が大事だぞ」

 「はい!」

 

 

「…へぇ~サヴァンって彼女いるんだ~いいなぁ。ねぇ、仲良し?」

「ええ、まぁ。幼馴染ですからね。…それに今回の戦いへも彼女が背中を押してくれたお陰ですから」

「うわ!ナチュラルに惚気られた~!あはは、なんかいいねー そういうの」

 「別に惚気ていません」

 

・・・・・・

 

楽しい時間はあっという間に経ち、気づくと時計の針は22時を指していた。

ベルはそれに気づくと慌てて立ち上がった。

 

「あっもうこんな時間!私明日、早くから行かなくてはならない所があるのでそろそろ帰ります!今日はありがとうございました、とっても楽しかったです」

 

 

そんなベルの様子に男性陣は各々が送っていくと口に出そうとしたが、その言葉を聞く間もなくベルは急ぎ足で店の外に飛び出した。