第五銀河惑星

広い銀河の中心に一際輝く五つの星があった。

ソレイユ・フレイム・フルール・テール・ヴェント、この五つの星の総称「第五銀河惑星」

そして今、この第五銀河惑星に突如現れた謎の彗星が猛威を奮い接近していることが分かった。

この事実に対し第五銀河惑星を統括する光の星ソレイユでは若くして神直属第一隊長を勤める

アージェント率いる神軍(しんぐん)と呼ばれるひとつの軍隊が創られようとしていた…

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第26話「本気」

 訓練場にはすっかり和んだ空気が流れ出していたが、それを引き締めるように切り出したのはフォートだった。

 

「さて…と、俺はそろそろ訓練に戻るが…ベル、お前はどうする?」

 

質問は意外だった。

どうする、と言われるとこの後の行動を特に考えていなかったベルは腕を組み片手を顎にかけ、少しの間考えてから笑みを携えて答えた。

 

「そうね、せっかく訓練場に来たんだし…私も訓練していくわ!あ、フォートよかったら手合わせをお願いできない?」

 

ベルの予想もしていなかった誘いにフォートは驚くように目を大きく開けた。

 

「て、手合わせ?!お前…まかりなりにも俺はフレイム一の剣士だぞ?」

 

その返答にベルはふふと笑みを零しいささか誇らしげに答えた。

 

「ええ、知ってるわ。でもこう見えても私もフルール国王軍で騎士隊に所属しているの。心配は無用よ!」

 

つい先ほどまで花のように可愛らしく微笑んでいたと思えば、凛とした表情を見せ話すベルの様子にフォートは嬉しそうに笑った。

 

「っはは!やっぱベルは面白れーなぁ、他の女とは全然違うぜ。…うっし!じゃあどっからでもかかってこい!」

 

フォートの了承を得たベルは壁に立てかけていた訓練用の剣を手に取り、会釈し剣技の体制をとっては深呼吸をして「参ります!」という発声とともに素早くフォートへ向かった。

 

 

「…へぇ。やるじゃねぇか」

 

 

 

フォートは予想していたよりもベルにはスピード、技術があるとわかり嬉しそうに声を零した。

 

その余裕の表情をみてベルはキッと目を鋭くさせフォートへ問いかけた。

 

 

「ちょっと…!フォート、ちゃんと本気でやって!!」

 

 

ベルの技量を図るためいささか手を抜いていた事を見抜かれたフォートはクスと鼻先で笑った。

 

 

「はは、バレちまったか!……じゃあちゃんと目ェ、開けてみとけよ……!!」

 

 

…と、いたずらな笑みを浮かべていたのもつかの間。

 

 

フォートの深紅の瞳は光ったように見え、剣は空を切るようにベルの横にあった人型を模した的のど真ん中に刺さっていた。

 

その光のような速さで的を得る剣さばきをした時のフォートの表情はまだベルが見たことのない凛々しく力強いものだった。

 

 

「…う、うそ…!」

 

 

勝負はその一瞬で決まってしまった。

 

ベルは驚きのあまり硬直していたが、

フォートはすぐに見慣れたニカっとした笑みを浮かべ剣を下ろした。

 

 

「ベル、なかなかやるな!じゃー…また手合わせしよーぜ。ありがとな」

 

 

そう言うとベルの肩にポンと手を置いてフォートは先に自室へ戻っていった。

一人になったベルはまだ少しぼうっとしていたが、剣を元の位置に戻しながら呟いた。

 

 

「…すごかった。剣が見えなかった…あれがフレイム一の剣士……」

 

 

ベルのフォートへの印象が”尊敬”へ変わった瞬間だった。

 

 

そしてその後も止めを刺す瞬間の凛々しい表情がなぜかしばらくベルの頭から離れることはなかった。

 

 

第25話「微笑み」

真っ白に輝く鳥が群れをなして青い空を駆けていく。

朝を告げるラッパの音が響き、人々が、街が動き出す。

 

ベルは頭の高い位置で髪をまとめ、朝の支度を終えた。

鏡越しの自分を見つめ、パンッと頬を叩き、気を引き締めた。

 

部屋を出てまずは食堂へ向かった。

昨日フォートが持ってきてくれた皿を返していると、サヴァンが隅の方で本を読みながら朝食をとっているのが見えた。

 

サヴァンさん、おはようございます」

ベルはサヴァンが座っているテーブルの向かいに立って挨拶をした。

サヴァンは本から目線を上げると、「君ですか、どうぞ」と言って、ベルを向かいの席に座るよう手で促した。

 

「昨日は、ありがとうございました。ろくにお礼も言わず去ってしまい申し訳ありません」

座席についたベルは頭をさげた。

「いえ、気にすることはありません。私も興味深かったものですから、有意義でした」

ベルは安堵した表情で顔を緩めた。

「昨日、言いそびれたことですが…フリージア家の能力について、お話ししますか?」

聞くことによってプレッシャーになってしまう可能性も考えて、サヴァンなりの気遣いの質問だった。

「はい、教えてください。知らないままなのは嫌です」

ベルはまっすぐ背筋を正した。

「お話しすると言ってもそれほど私も詳しくはないのですが。フリージア家はフルールの花の民。木花の力を借りてあらゆるものを足止めすると文献に残っていました。方法まではまだ解読できていないですね」

 「木花の力…。サヴァンさん、ありがとうございます。何かの手がかりになるかもしれません」

ベルは立ち上がりお礼を言った。

サヴァンは何かわかったらまたお話ししますと言い、また本を読み始めた。

無表情ながらも優しい人だなと思いながら、ベルは少し微笑んで、一礼してその場を去った。

 

食堂から出る際、シオンとすれ違った。

「おはようございます、シオン」

「やあ、ベル。おはよう。気持ちのいい朝だね。ベルは朝からシャキシャキしてて偉いなあ」

シオンは世の中の女性達がとろけてしまいそうな笑顔で挨拶をした。

「こんな事態ですからね。ところでシオン、フォートを見かけませんでしたか?」

「フォート?朝の訓練してくるってさっき走ってたけどなあ。訓練場にでもいるんじゃないかな。ベルの会いたい人がフォートだなんて、妬けるなー」

シオンは頭の後ろに手を組んでにやついた。

「そ、そんなのじゃありません!昨日お世話になったのでお礼を言いに行くだけです」

「はいはい、そういうことにしてあげる。訓練場は入口近くだよ。迷わないようにね」

シオンはベルの肩をポンポンと叩くと食堂へ入っていった。

「もう…そんなのじゃないのに…」

ベルは頬を赤らめて訓練場へ向かった。

 

訓練場は、広く、真っ白い空間が広がっていた。訓練場の扉は開け放たれており、部屋の真ん中あたりでフォートが剣の素振りをしていた。

天窓から注ぐ陽の光がフォートの汗を照らしていた。

一通り剣の型を素振りしたフォートは、ふうと息をつき洋服の裾で顔の汗を拭った。

入口付近に佇んで、声をかけられずにいたベルの方を見て、ニカっと笑った。

「あんまり見つめられると恥ずかしいもんだな!」

わははと笑って剣を鞘に収めた。

「え!いやそういうつもりじゃ…」

ベルは慌てて手を横に振った。

(さっきシオンに言われたからやりづらいわね…)

少し頬が熱くなるのを感じたが、ふるふると雑念を消すように努めた。

「昨日の夜、ありがとう。夕食と、あと、話を聞いてくれて」

「律儀なやつだなー。気にすんな。俺がやりたくてやったことだからよ。大した事してねえけど、元気でたみたいでよかったな」

ベルは近づいてきたフォートを見上げた。

よく見るとフォートは力強い深紅の瞳をしていて整った顔立ちだ。

「うん。フォートのおかげで気持ちが軽くなった。また何かあったら話を聞いて欲しい」

ベルはフォートの目を見て微笑んだ。

それは戦闘からは無縁のような、花のような微笑みだった。

「お、おう、いつでも喝入れてやるよ。その、なんだ、メシも毎日持って行ってやる…」

フォートはなぜか頬が熱くなってしまったので腕で口元を隠しながら言った。

 

 

「ふふ、毎日なんていいわよ」

とベルは笑った。

 

 

(なんで、顔が熱いんだろう)

 

ベルとフォートはそれぞれ同じことを考えていたが、それはお互い気づくはずもなかった。

第24話「星空の約束」

 ベルがフォートと話し始めた丁度同じ頃、自室にいたアルメリアは浮かない表情を浮かべながら鏡台の椅子に腰をかけていた。

 

「(ねぇ、アージェント。この先世界は一体どうなってしまうのかしら...わたくしにも何かできることがあれば良いのだけれど)」

 

迫り来る危機に隠し切れぬ不安の色をのせた瞳は小さく揺れていた。

どこか落ち着かない様子で立ち上がり、外の空気を吸おうとテラスへ出ると先ほど心の中で問いかけをした人物がそこに居り、アルメリアは驚いた。

 

「アージェント…?」

 

高く位置するアルメリアの自室を見上げるようにして中庭に佇んでいたアージェントも、まさか本人が顔を出すとは思っておらず、いささか目を大きくし驚きの表情をみせた。

そんなアージェントの表情をみるとアルメリアはとても気持ちが高揚しているのを感じながらアージェントへ向け声をかけた。

 

「アージェント! そのまま そこに居てね?今すぐ行くわ!」

 

アージェントは度重なる驚きに珍しく困惑したが、それもつかの間で息を切らせたアルメリアが目の前に現れた。アージェントはアルメリアの息が整うのを待ってから話し始めた。

 

「ア、アルメリア様…そのように息を切らせて……」 

「ふふ、おまたせ アージェント」

「いえ、しかしいくらソレイユに宵闇がないとは云え、姫君がこのような時間に出歩いては…」

「あら それはお互い様でしょう?」

「...仕方のない方ですね」

 

いつもなら"いけません”と言って返すところ、なぜか今は麗しい姫君が心許した者だけに見せるその悪戯な表情につられアージェントも笑みを零し許していた。

 

「ところで姫、私の思い過ごしであれば良いのですが…その、少々元気がないように見えるのですが…...何かあったのですか?」

 

その言葉にアルメリアは "まぁ" と口元に指先をわずかに触れて驚いた。

 

「ふふ、あなたは何でもお見通しなのね?…そうね、少し歩いても良いかしら」

「ええ、もちろんです。私は姫の専属護衛ですし、供に何処へでも参りましょう」

「専属護衛…そうね。……あ、リュヌリウムへ行きましょうか。わたくし、あちらの星空を見るのがとても好きなの」

 

花のように微笑んだかと思えば、その花をしゅんと萎ませるように儚い表情をみせるアルメリアにアージェントの心も少しずつ動いていった。

 

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 ソレイユはこの第五銀河を統べる星となっているため、重要な位置となる星々を常に観測できるよう様々な施設がある。

リュヌリウムとはその中の惑星リュヌ、別名"夜の星"を観測するための施設である。その名の通りリュヌは一日中夜が続く星であり、ソレイユとは真逆の位置に存在している。

このリュヌリウムはドーム型をしており、室内に入ると天井にはリュヌに瞬く美しい星空が広がっている。アルメリアは心を落ち着かせたい時など、よく利用していた。

 

「姫、足元にお気を付けくださいね」

「ええ、ありがとう アージェント」

 

二人は中へ入るといくつか設置してあるベンチの一つへ並んで腰を掛けた。

供に瞬く星を眺め、心地よい沈黙が流れていた。アージェントは時折、星々を瞳に映すアルメリアの美しい横顔に心を揺らしていた。

そんな沈黙を破り、先に声音を響かせたのはアルメリアだった。

 

「ねぇ、アージェント。これから先、世界は大きな戦となるのでしょう?」

「…… ええ」

「わたくしは…ソレイユの王女として皆を守れるよう尽力するわ」

「 姫…心強いお言葉、ありがとうございます。私たち兵も必ずや姫、そしてこの世界を守り戦い抜いてみせます」

 

アージェントの言葉にアルメリアはふわりとほほ笑むも、アージェントにはそれがどこが寂し気な笑顔に感じた。

 

アージェントは徐に立ち上がると、アルメリアの向かいに立ち そして跪いて彼女の片手を取り瞳を合わせた。

 

「…アルメリア様。 私ではそのお心に潜む不安は拭えないのでしょうか?」

 

アルメリアは突然の行動と向けられた言葉に胸奥がぎゅうと締め付けられような感覚になりながらも、取られた手をきゅっと握り返して答えた。

 

「アージェント…。ふふ、本当に…お見通しなのね? ……わたくしはあなたに守っていただきたいの。…アージェント、わたくしを…ずっとずっと守ってくださいますか?」

 

そう言ったアルメリアの顔はほんのりと朱をのせ可愛いらしく笑っていた。

アージェントはその笑顔が何よりもうれしく同様にほほ笑むと、取っていたアルメリアの手を口元に寄せた。

 

「勿論です、姫。私が永遠にアルメリア様をお守りいたしましょう」

 

そう答えるとアルメリアの手の甲に触れる程度の口づけを落とした。

 

「…ええ、約束よ?」

 

 

美しい星々が瞬く夜空の下でアージェントとアルメリアは二人だけの約束を交わした。

 

第23話「フリージア」

その後はそれぞれあてがわれた部屋に戻ることになった。

 

部屋へ戻るさなか、ベルは戸惑いを隠しきれなかった。

あなたの先祖は大変優秀な人でした、だからあなたが選ばれましたと言われても、はいそうですかというわけにはいかない。

先祖と同じ力を求められても、それに応える術を知らない。

 

心ここに在らずという顔で廊下を歩くベルに、サヴァンが声をかけた。

「ベル、少々時間をよろしいですか。余計な世話かもしれませんが、君の先祖、フリージア家の話をしましょう。知らないものには漠然とした不安が追いかけてくるのです。知れば不安を拭い去ることはできなくとも何かを得るかもしれません。まあ、君が私と話をしたくないと言うのなら手間もかからなくなるので一向に構いませんが」

ベルは彼の気遣いがありがたかった。最後の一言が余計な気がしたが、それも彼の持ち味なのだろう。

サヴァンさん、教えてください。一体私は何を期待されているのか、知らないままなのは嫌です。お願いします」

2人は通り道にあった中庭に行き、真っ白なベンチに腰掛けた。中庭には色とりどりの木花が植えられ、隅々まで手入れされている。フルールから取り寄せたものだろうか。ベルにとっては花々に囲まれた空間が故郷を思い出させ、心地よかった。

「さて、君は先程、親族から何も聞かされていないと言いましたね」

サヴァンは腰掛けるやいなや顎に手を当てて口を開いた。

「はい。私、両親とは幼い頃の記憶しかないのです。幼かったから、誰も教えてくれなかったのでしょうか…」

ベルは少しうつむいて膝の上においている拳に力を入れた。

「その可能性はありますね。親族でなくとも、周りの人は誰もそのことについては触れなかったのですか?」

サヴァンは探るような目でこちらを見やった。

ベルは伏せていた顔を上げ、キラキラと差し込む空の光に目を凝らした。

「両親も誇り高き兵士で…ほかの親族も戦いに身を投じている者ばかりでした。それで、私がいくつの時だったかは記憶があやふやなのですが、大規模な戦いで皆帰らぬ人となりました。それからは、ありがたいことに両親の友人が目をかけてくれて…あ、両親とは特に懇意にしていたみたいで、とても心配してくれていて。私にとってはその人が育ての親なのです」

ベルは膝の上で握っていた手を開き、自分の掌を見つめ、話を続けた。

「育ての親…は、本当の娘のように育ててくれました。それはもう、お礼を言い尽くせないほど慈しんでくれました。だからこそ、私がフルールの騎士団に入る時とても心配されました。両親と同じ戦う道を選ぶことに反対していて。おしとやかに、街の女の子として生きなさいと。結局言いつけは守らないわけなんですけれど」

サヴァンはふむふむと1人で納得したような様子で口を開いた。

「なるほど合点がいきました。君が幼い頃に生き別れとなった戦争についての説明は割愛します。そこで君がフリージア家唯一の生き残りとなったというところまではこちらでも調べがついていました。しかしなぜ君が一介の兵士のままなのか不思議だったのですがそういうことだったのですね」

彼はスッキリしたという表情になっていたが、何に合点がいったのかさっぱりわからなかった。

サヴァンさん、どういうことでしょうか」

ベルはやや不穏な目つきで首を傾げた。

「ああ、すみません。デリカシーのない言い方や言葉が足りないところはよく注意されるので一応気をつけているのですが、簡単には直りませんね。気を悪くしないでいただきたい」

「いえ、大丈夫です。それよりも、今の話でわかったことを教えてください」

ベルはグッと肩に力を入れた。

サヴァンは足を組み直して背もたれに寄りかかった。

「君の育ての親のことですよ。君は大事に育ててくれたその人に対して莫大な恩義を感じ慕っている。そしてその人は君が戦うことを反対している。それに応えたい自分と戦いの道を選びたい自分の狭間での葛藤が、無意識下で君の力を抑え込んでいるのでしょう」

ベルは目を見開いた。それに構わずサヴァンは続けた。

「“街の娘として普通に暮らす”のを実現させようと思ったり、フルール騎士団に入ることに負い目を感じたことがあるのでは?少しでもそういう心当たりがあるのなら、それが足枷になっている可能性は十分に考えられます」

ベルは顔を伏せた。十分すぎるほど心当たりがあったからだ。騎士団に入ることが、育ての親を裏切ったような気持ちになる事すらあった。でも自分の気持ちに嘘をつくことはできないと決意して、フルール国軍の兵士になったのだ。

「でも…たとえ負い目がなかったとしても私にそんな力が…」

ベルは顔を伏せたまま、小さな声で言った。

「先祖代々の力がそのまま受け継がれるかといえば、そうではありません。年々能力は薄れてきていることは確かです。フォートのように、自分では気づかないまま力を発揮しているパターンもありますが。しかし、フリージア家の能力は…」

と、サヴァンが言いかけたところでドタドタと騒がしい足音が聞こえた。

「おーい!あっちですげえ旨そうなもん用意してあ…ってサヴァン!なにベルを泣かしてんだよ!」

サヴァンは、ハッと隣にいるベルを見た。顔を伏せていたので彼女の表情までよく見ていなかったのだ。

ベルは拳を握ったまま勢いよく立ち上がった。

「な、泣いてません!サヴァンさんには色々教えていただいていただけです!サヴァンさん!ありがとうございました!またお礼はあらためます!失礼します!」

ズカズカとフォートの横を通った。

「あ、ベル!部屋戻るのか?あっちにメシ用意してあったぞ!」

「いりません!!」

ベルは振り返らずに返事をして行ってしまった。

「なんだあ?あんなに肩に力いれてたら疲れちまうぞ。サヴァン何やったんだよ」

「先祖の話をしていただけですよ。彼女が泣きそうになっていたことは気づかなかったので切り上げて正解だったかもしれません。フォートはよく遠くからでも気づきましたね。野生のカンというやつでしょうか」

「野生のカンてなんだよ。野生の俺も栽培の俺もねえっつーの」

サヴァンは呆れたように横目で見てため息をついた。

「あ、今すごいバカだなって思っただろ。わかるんだぞそういうの」

「さすが野生ですね。食堂はあちらですか」

「さらっと流すんじゃねえ。食堂はあの角曲がったほうだけど」

やいやい言いながらも、食堂の場所を教えるのがフォートのいいところだなとサヴァンは思った。同時にそれを口に出して褒めることもしないでおこうとも思った。無駄に調子に乗るのが癪に障りそうだったからだ。

「そうですか。では」

サヴァンはスタスタと食堂へ向かった。

 

 

ベルは部屋に戻り、今までのことについて考えていた。本当の自分の気持ちとは何か。

どれくらいそうしていただろうか。

辺りは静まり返り、人々は就寝する時間になっていた。

ソレイユでは日が暮れることはない。どんな時間でも燦々と空は輝いていた。

ふいに部屋の扉ををノックする音があり、扉を開けた。

そこにいたのはフォートだった。

「よ。大丈夫か?おまえメシ抜きだっただろ。少しわけてもらったから食えよ」

フォートが持った皿には美味しそうなサラダとパンが乗っていた。

「あ、ありがとう…」

ベルは皿を受け取った。色々なことがありすぎたからか、フォートの優しさが、まっすぐ伝わって目尻に涙がこみあげた。

それじゃあ、と慌てて扉を閉めようとしたが、フォートがバン!と扉を止めた。

「待った。やっぱ俺も一緒にメシ食うわ。メシ食ったら帰るから部屋入れてくれ」

「や、あの」

ベルは言葉につまりフォートを帰すタイミングを失った。

フォートはソファに座ると、メシは1人で食うより誰かと食ったほうが美味いんだよと言って笑った。

ベルは向かいのソファに姿勢を正して座った。

 持って来てもらったサラダを食べながら、ベルは口を開いた。

「フォートさんは」

「フォートでいい」

「フォート、は」

カタン、と持っていた食器を机に置いて見つめた。

「自分の先祖がすごい人だったって聞いて驚かなかったの?」

フォートは、うーん、と顎に手をやった。

「そりゃあ、驚いたけどな。でも先祖は先祖だし、俺は俺だろ」

「そうだけど…」

ベルはぎゅっと口の端に力を入れた。

「ベル、そうやって我慢して力いれてると、戦う前に疲れちまうぞ。なんでもいいから吐き出してみろ」

ベルは彼がフレイムの第一隊長である所以がわかった気がした。人の気持ちの機微に聡く、世話焼きだ。オブラートに包まないという短所もあるが、それが長所でもあるのだろう。彼の人望が厚いことが容易に想像できた。そして、その率直さが素直に羨ましく思えた。

「私は、今回の事態を何としても食い止めたい、私に出来ることはなんでもやる、それは本当の気持ちだ。けれど、今の私の実力以上の特殊な能力を期待されていると知って、どうしたら良いのかわからなくなってしまった」

ベルは目を伏せた。こんな弱音を吐く自分も嫌だった。

「上等じゃねえか」

フォートはニカッと笑った。

「今の自分にできることを全力でやる、全員、それだけだ。特殊能力があろうとなかろうと、土壇場でその力を出せるかどうかは別の話だと思うぜ。先のことなんて誰にもわからねえ。ベル、絶対食い止めたいっていうその気持ちひとつでアージェントの元に飛んで来たって聞いたぜ。その行動力はフルールでお前1人だったっていうのは間違いねえじゃねえか」

ベルはハッと顔を上げた。目線の先にはフォートがどっしりと構えて微笑んでいる。

フォートは「もう、大丈夫そうだな」と呟くと皿の上のフルーツの実をつまんでベルの口にグイッと押しやった。

「ほら、これモリモリ食って、ぐっすり寝ろ」

「フォッ、フォート」

ベルはもぐもぐと口に手を当ててうまく喋れない間に、フォートはじゃあな、と部屋を出て行った。

 

口にたまったフルーツを飲み込んだベルは、落ち込んでいた気持ちも一緒に飲み込んだかのようにスッキリとした気分になっていた。

起きたら、サヴァンさんにまたきちんとお礼を言いに行こう。

あと、フォートにも。

会ったばかりなのに優しい人達ばかりだ。

落ち込んでる暇などないと、ベルはまた姿勢を正した。

第22話「神軍特別部隊アレス」

ベルからのまっすぐな質問とその力強い瞳が、自分をしっかりと捉えて離さないことにアージェントは嬉しくなり思わず口元に笑みを浮かべた。

 

「…ただの兵士、か。……それでは納得がいくよう説明しよう。他の皆も聞いてくれ」

 

アージェントはバラつきだした意識を再び集めるとゆっくりと話し始めた。

 

「まず今回我々の敵となる"黒翼の軍勢"についてだ。知っている者もいるとは思うが、逸話によると奴らはおよそ千年前、今回同様にこの第五銀河惑星を襲った者達だと云われている。…そしてその脅威はとある五人の戦士の率いる軍によって封印された。しかしその封印はもって千年だと云われている……史実通りならばその封印がついに解かれたのだろう」

 

「五人の戦士?」

 

きょとんとした顔で問いかけたのはフォートだった。

彼は見た目通り勉強云々は好まずこの類の史実もあまり興味がないのか知らない様子だった。

そんなフォートを見かねてかアージェントよりも先に声を発した者がいた。

 

「第五銀河惑星を救った伝説の五人の戦士…ご存じありませんか?小等部の星学で習うはずですが……まあ、いいでしょう」

 

歴史や星学に最も精通しているサヴァンだった。

サヴァンからのチクリとした言葉にはフォートも頭をかいてバツの悪そうな顔をするも「すまねぇ」と笑いかけた。

そんな二人のやりとりにアージェントもクスと鼻先で笑みをこぼすも話しを続けた。

 

「そうだ。およそ千年程前にその五人の戦士達が率いた軍こそ、神軍特別部隊アレスだ。今回の我々の軍名も引き継ぐという意味で拝借している」

 

伝説の戦士等の史実については学んでいたが、それが先程聞いたばかりの軍名だったことにベルは驚きピクリと反応するも、まだ自身が知りたがっている内容が明らかになっていないためか大人しく聞いていた。

 

「続けよう……つまりこのアレスを引き継ぐにふさわしい者を今回招集したのだ。その招集条件の一つが我々五人は、伝説の戦士の子孫であるという事だ」

 

想像していなかった答えにベルは目を大きく開いた。また同様にフォートも知らなかったのか一際大きな声で「マジかよ!」と叫んだ。

 

「あーそれ何となくだけど昔オヤジから聞いたことあるかも。でも本当の事だったんだね」

 

シオンは表情を変えずにひらりと片手をあげて言った。

サヴァンは知っていた為、静かに頷いていた。

 

「え…そんなすごい人たちの子孫だったなんて知らなかった…。両親や親族からは一言も聞いてない…」

 

 

ベルは驚きのあまり心の声が出てしまっていた。

第21話「大役」

神軍特別部隊アレスの指揮官として就任を依頼、もとい命じられた面々の反応は様々だった。

フォートは任せろ!と拳を鳴らした。

サヴァンは腕を組んだ姿勢で落ち着いており、シオンは手を頭の後ろに当て、大変そうだなあなどと言った。

ベルだけが、驚きとプレッシャーを感じているかのようだった。

 

アージェントに助けを求めにここへ来たのは、ベルの意志であることは間違いないが、まさか指揮官に抜擢されるとは、一つの疑問しか浮かび上がって来なかった。

 

なぜ、私が?

 

ベルが気圧されそうになる中、アージェントは説明を続けた。

「黒幕はわかっている。彗星の正体は黒翼の軍勢だ」

「黒翼の…って、あの昔話、ていうか作り話じゃなかったのかよ」

フォートは目を丸くして驚きを隠さなかった。

それに続きシオンが言った。

「それって、言い伝えによると封印されていたはずだよね」

サヴァンは、ふう、と息をつきそれに反論した。

「ここ数年で、封印が解かれる兆候はあったのです。解かれるというよりは消えると言ったほうが良いでしょうか。といっても確かめる術もなかったので半信半疑でしたが…まあ、今回の件は黒翼の軍勢で間違いありませんね」

「じゃあまた封印するってことか?封印の仕方なんてわかんねえぞ俺は」

フォートは頭をくしゃくしゃとかいた。

「フォート、その点は心配しなくていい。封印はしない。再びこのようなことが起きぬよう、全て終わらせるつもりだ」

アージェントは不敵な顔つきで言った。

それを見たシオンは、ひゅう、と口笛を鳴らした。

「わかりやすくていいね」

「お?シオンお前も結構血気盛んだな!気が合うじゃねえか」

フォートは嬉しそうにシオンの肩を叩いた。

「否定はしないけど、フォートほどではないと思うよ多分。あと肩痛いってば」

そんなふたりのやりとりを見ていたベルは拳に力を入れた。

アージェントは腕を組み、話を続けた。

「彼らは次の日食の時に襲ってくると断言しに来たんだ。次の日食まで2週間あるが、オーキャルのこともあり気を抜けるわけではない。それまでには皆、準備を万全にしていてほしい」

アージェントの言葉に一同は頷き、ひとまず今日はここまでにして各々の滞在する部屋の案内へと移ることとなった。

「待ってください!」

部屋を出ようとしたフォートとシオンは足を止め、振り返った。サヴァンは壁に背をもたれ、じっとしている。

ベルは思わず口をついて叫んでいた。

アージェントの吸い込まれそうなほど美しい瞳を見つめ、肩に力をいれた。

「ご無礼を承知でお聞きします。なぜ、私が選ばれたのでしょうか?確かに、アージェント様へ助けを求めに馳せ参じたのは私の意志にほかなりません。しかし私はただのフルール国軍の兵士です。このような大役を任されるような実績も人脈もありません。私が招集されるという事が不思議でならないのです」

ベルは膨れ上がった疑問を投げつけた。