第1話「騎士団訓練生」

 ベルは今年で16歳になる。騎士団の訓練生として小部隊に所属する女子は少なくなく、ベルもその中の一人だ。幼馴染であり親友のモナミとふたりで日々競い合っては腕を磨いていた。訓練生のなかでベルとモナミは抜群に優秀で、そこらの男と剣で勝負して負けることはまず無かった。

ある日、馬の世話をしていると、馬屋の横の井戸端で街の女たちが噂話に花を咲かせていた。第五銀河惑星を統一している星、ソレイユの公爵が、ベルたちの住むフルールに来るというのだ。

第五銀河惑星とは、数ある星のなかでも跳び抜けて発展した五つの惑星の総称だ。その五星にフルールも含まれているのだが、ソレイユは比べものにならないほど大きく、銀河全体を統一しているといっても過言ではなかった。その星の公爵というのだから、ベルからすれば、文字通り雲の上の存在であり、噂話に参加する気にもならなかった。
しかし、モナミが持ち前の好奇心とミーハーさで、一目見たいとだだをこね、ベルが一緒に来ないと機嫌を損ねるのが目にみえたので仕方なくついていくことにしたのだ。

「今日訪問される公爵様って大神様の直属、神軍(しんぐん)の第一隊長だって」
モナミが新しく手に入れた情報を嬉々として報告した。
「それって、あの有名な?」
「そう!貴族中の貴族、あのブラン家のご子息!」
ベルも常識として知っていたが、目を輝かせて語る自分の親友ほど詳しくなかったので言われても明確に顔を思い出せなかった。
「ご子息ってふたりいなかった?どっちが神軍第一隊長なの?」
「やだ、ベルそんなことも知らないの?兄君のほうよ。相変わらず平和主義者なんだから。ちょっとは軍の知識も深めなさいよ」
言われてもやっぱり顔は思い出せなかったが、これ以上聞くとモナミにからかわれそうだったので、やめておくことにした。
「そろそろ行かなきゃ、公爵様のお着きに間に合わないんじゃない?」
「大変、すぐに行かなきゃ」
二人は神殿の方へ駆け出した。